みになりません、どこまでも ~別編その三 ~

【同時刻 月宿高校 正門】

…………
お、ネコさんじゃねェか
ああ、アキモリかい。……こんな所で何してんだい、アンタは
俺ァ学校の見回りをしてるんだぜ!
やれやれ相変わらずさねェ
そりゃァネコさんもじゃねェか。ガキどもが心配でここにいるんだろ?
……そんな親切心は持ち合わせちゃないさ
確かにな。親切な奴はガキを人外にはしねェよな
何だいアンタ、今日は随分噛みつくじゃないさ
別に噛みついちゃねェぜ?
ああはいはい、事実だってんだろ? ……それとアンタ
おう、なんでェネコさん
いい加減公衆の面前でアタシらに話し掛けるのは止しな。可笑しな奴だと思われるよ
……気にして視えるモンも視えない振りしろってか?
心配はありがてェが、俺達の仕事を考えると本末転倒だぜ
だったらどうして人の姿なんかでこの学校に来てるのさ
そりゃ可笑しな話だぜ、ネコさん
何がどう可笑しいってんだい
それは俺じゃなくて師匠に聞くべきだろ?
…………
……確かにその通りだ。アンタ、頭が良いじゃないさ
ありがとよ
まあ大方瘴煤の多い場所に目星をつけてそこを拠点にしようとした……ってところかねェ
企業秘密だぜ!
はいはい。……自分の正体を簡単にあの子らにばらした男のことは忘れてやるよ
はは、それを言われちまうとなァ
…………
……アンタ、もしかして思い出したのかい?
ん? そりゃァ言っても仕方ねェし、聞いても仕方ねェだろ
……ああ、そうだね。その通――
ああ忌々しいあの烏!!! いつか焼き鳥にして消し炭にしてくれる! まあ本体が黒いから焼いても色は変わら――
…………
…………
…………
みんなのアイドル、一陽ちゃんだよぉー☆彡
アンタ、本当に立派だよ。いろんな意味で
何のことかなぁ? 一陽わかんなーい
もうネコさんが見えることも隠す気ねェんだな
一陽はココロがとーってもピカピカのぷりちーアイドルなの。だからこの妖精さんが見えるんだよぉー? ねー?
アタシを巻き込まないどくれ
なるほどなァ! じゃあ俺もネコさんが視えるからアイドルって訳だ!
何で急に無法地帯になるんだい! アンタ達、個別に会話する分にはそこそこまともじゃないさ!
妖精さんってばお顔がこあーい! 不細工な大福みたぁい!
馬鹿言うんじゃないよ、こんなに愛らしいアタシを捕まえて。そもそもアンタ達がアイドルってんならアタシもアイドルだよ






(何言ってんだ、あの化け猫)
(何言ってんだろう、十九波さん)
…………
(非常に楽しそうだ)
え、何なに?
うわ、生徒会長と水城先輩……が、どうして地面を見詰めながら会話してるの?
ホントだ、どういうこと? しかも水城先輩は笑顔で大福大福連呼してるし
(……そうだ、我ら以外に十九波さんは視えないのだった)
(ここは私が何とかせねば!)
もしや地面に大福など落ちているのでは
……つまり先輩は大福に話しかけてるってこと?
ヤバイ人だとは思ってたけど、そこまで本格的に?
それはほら、あれだよ。大福と会話ができるって設定のキャラ付けなんじゃ?
その設定もはや本人すら得しないじゃん
(私の所為で先輩が大変なことに)
……ねえ、ミサキちゃん。あの二人、止めてあげた方が良いんじゃないかな?
えっ
近所迷惑やしな。ふわああ……
…………
そうだよなー! 全くアイツら校門で一体何してんだろうなー? おーい、戸神ー! 水城―! 近所迷惑だぞー!
(私が何とかできなかった)
あーあ、止せばいいのに自ら近付いて
……佐希子佐希子、法月先輩の前だから
……! げふんごふん……!!
ええと……僕達も米原先生を追い掛けましょうか?
そうですね
あー、関わりたくねー
ま、まあまあ……
それにしても水城さん、こんなに寒い中でもお腹だしてるの強いねー
ええ、狂気としか
御覧広瀬、あれが個性や
狂気方向は間に合ってます






おっす、俺ミサキちゃん! “二人”は何をしてるのカナ?
アイドル合戦だぜ!
そうだよぉー?
……二人で?
そうだぜ!
そうだよぉー?
あー……仲が、いいのね?
ほらほらアンタ達、事情を知らない子も向こうから来るからもう止めな
アンタ達は“視えない”って設定だろ? 今日まで積み重ねてきたもんをここで壊しちまっては詮ないよ
……だから知らぬ存ぜぬで通しな。あの時選んだ未来を後ろめたく思う必要なんてないさね
…………
……おい。何の話だ、大福
別に何でもないさ。……誰が大福だい!
こんにちは、戸神くんに水城さん。ここで何をされていたのですか?
アイドルだぜ!
アイドルだよぉー?
…………
よろしければお二人もエコ部……校外清掃に参加されませんか?
まるで何事もなかったかのように
……お前って時たま強引だよな、小田島
ん? ゴミ拾いに行くのか? 行くぜ!
有り難う御座います、戸神くん
……んー、一陽はそういうのぉ、あんましキョーミないからぁ
アイドルが清掃活動をしていると、ファンが増える気がしませんか?
…………
……ま、行ってもイイよぉ? セイソー活動には興味ないけどぉ、触覚ちゃんがいるしぃ?
有り難う御座います、水城さん
よろしくお願いします、一陽先輩
…………
ガード、頑張ろうな。ヨッシー
ガッテンだ。日和見主義の私だが今回ばかりはな
……男ども!! 兼子と川奈を見習って!!!
小田島先生、そろそろ行かないっすか?
ええ、そうですね
陽が、沈んじゃいますもんね!
菅野さん、軍手ってある?
あります
俺にもちょーだい、スガちゃん
少々お待ちを
…………
米原先生、どうかしましたか?
……うん、俺もクラスチェンジして弱S属性を目指しちゃおっかな? って
無理だと思いますよ。誰よりも心が綺麗で優しい先輩には
えぇー……こんなところでやめてよー、ドキッとしちゃうじゃーん……
はい、それでは皆さん行きますよ。まずは月宿池を目指して
はーい
御意
行くぜェ!






…………
……全く、何だいあの子達は。ちらちら振り返って、嬉しそうに手なんか振って……
ふあああ……全く元気な奴らやなぁ。ニャンコちゃんは行かへんの?
まだいたのかい、烏。……アタシについていって欲しいのかい?
せやなぁ、アイドルはいくらおってもええからなぁ
噛むよ
こっわ
ほら、アンタもとっとと行っちまいな。……気が向いたら付いてくさ
さよか



ちーちゃーん!



ふああああ……ほんなら行くわ
はいよ






…………
……月宿を浄化したことのあるアンタ、聞こえてるかい? アンタのお陰でここもなんとか綺麗なままだよ
アンタは元気でやってるかい? まあ、また気が向いたら月宿に遊びにきてやっとくれ。……アタシの顔も見たいだろ? なんたってアイドルだからさ
……とまあ、冗談はさておき。疲れた時にでも遊びに来なよ。アタシとアンタの仲だ、少しくらいならアタシを撫でたって構わないしね
それくらいアンタには感謝してるんだ。まあ、アタシは天邪鬼だから、アンタを目の前にしたらまた気が変わっちまうかもしれないが
……じゃあね。アタシもあの子達を追いかけるよ。アンタのこれからに幸多からんことを
やれやれ、歩くのが速いじゃないさあの子達。追いかけるこっちの身にもなれってんだ



- 終わり -

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