※この小冊子にはネタバレが含まれる場合があります。試し読みの際もお気を付けください。




千晴サンプル

彼の長い睫毛が悲しみに伏せられる。
千晴さんはいつでもどんな時でも、私を一番に考えてくれる。それは言葉だけではなくて、日常のありとあらゆることから実感していた。
彼は知っているのだ。私がどれだけ大丈夫と強がってみせても、心の奥底では寂しいという感情を抱いていることを。
だからそんな私を一人にしないようにいつだって迎えに来てくれて、安心を与えてくれる。

政宗サンプル

今日の為、とはどういう意味なのだろう。……と、考える間もなく、荒城さんは向かいに座った私に隣に来るよう促す。
不思議に思いながらも隣に座ると、今度は小さな箱を取り出し、中からブレスレットを取り出し……。
「ほら、手ェ出せよ」

夢慈サンプル

いつもより低めの声で囁かれたことに驚き、慌てて否定したら声が裏返ってしまったことを恥ずかしく思う。少し距離を取って何とか心を落ち着けようと思ったけれど、先生はこちらを追うように更に距離を詰めて来た。
「それなら、僕について何を考えてくださったんですか?」

一角サンプル

気付けば紙袋さん達はとうに姿を消していて、私達は二人きりになっている。
窓から差し込む日の光が彼の色素の薄い髪を更に透けさせる。それがキラキラと輝いてあまりにも綺麗なものだから、どう贔屓目に見てもお伽噺の王子様にしか見えない。
私の王子様は陶器のように白く滑らかな指先を私の頬に滑らせて――

紙袋サンプル

冷ややかな声に向かって頭を下げた。紙袋越しとはいえ彼の顔を見る勇気がなく、だから視線を落としたまま来た道を引き返そうとした瞬間――
「……これから休憩をとるんですが、一緒にお茶でもどうですか?」
 ――引きとめられた指先から伝わる熱。彼は私の目の前で素顔を晒していた。