※この小冊子にはネタバレが含まれる場合があります。試し読みの際もお気を付けください。




千晴サンプル

千晴さんの言葉を待つけれど、彼は続きを教えてくれなかった。
ただ静かに胸に手を当てるその姿に、私の胸も締め付けられるようだ。
何か私に出来ることはないだろうか。
今、この瞬間だけでも彼の心の隙間を埋めることが出来るなら……。
「……申し訳ない。少し頭を冷やして来るよ」

政宗サンプル

そう言われ、私はどうしていいかわからないままぎゅっとその服を掴んだ。
優しい言葉を嬉しく思う気持ちと、失敗したのは自分なのだからという後ろめたさに甘えられない自分が心の中で戦っている。
けれど、やはり伝わってしまっていたのか彼にはそのまま頭を撫でられた。
そんなことをされたら、抑えなければならない気持ちが溢れてしまうのに……。

夢慈サンプル

先生は時々、とても不安定になることがあった。
目の前にいるのに、まるで私のことなんて見えていないようだった。
それは決まって先生の携帯が鳴った時。
そして戻って来た後はいつも疲れた顔をして、翌朝はワインの香りを纏っていた。
平日は仄かに、休日は色濃く。

一角サンプル

「……キング、奴等に罰を」
 それは抑揚もなく淡々とした、それでいて重苦しく体の芯まで凍えてしまいそうな響きを孕んでいた。
それでも聞き間違えるはずがない。……今の声は確かに八十八騎さんの――

紙袋サンプル

彼が優しい人だと分かっていたはずだった。
その遠まわしな温かさを好ましく思っていたはずなのに、どんな時だって私を見放さなかった彼をずっと見てきたはずなのに。
なのにどうして彼が差し伸べてくれた手は掴めなかったのだろう?