※この小冊子にはネタバレが含まれる場合があります。試し読みの際はお気を付けください。
二ノ瀬サンプル
成人というと『成人向け』という単語から二十歳を連想してしまうのだが今は十八で成人とみなされ一応は大人と同じ扱いになる。
といってもお酒やギャンブルは相変わらず二十歳からだし、結婚は元から十八で認められている。だからなんとなくの節目の年、くらいの感覚でしかないんだけど……一応『大人』になったわけで、彼女との関係をもう1段階進めても良いんじゃないかと俺は思うわけだ。
ちなみに彼女とどれくらい進んでいるかというと、最近やっとランク戦を一緒に出来るようになった。それだけ。うん、それだけだ。
確かにそれは嬉しい。PCゲームなんて全くやった事のない彼女が時折遭遇する暴言厨にもめげず俺と同じランク帯まで上がってきてくれたのは本当に嬉しかった。だけどそれで変わった事と言えば一緒にランク戦をやるようになったことだけだ。
デートでゲーミングカフェへ行くのが楽しくなったというのはある。でも、それだけ。
さっきから『それだけ』を連呼しているけど、同い年位の健全な青少年なら俺の気持ちわかるよね?
間宮サンプル
十二月。彼女が十八になって二カ月が経った。人は「だから何だ」と首をかしげるだろうが俺にとっては大切な事だ。
二カ月経ったことがじゃない。二か月経っても以前と何一つ変わらないことがだ。
俺はこの手の事に疎いが大学に入って多くの友人と交流する中で恋人というものがどんな関係なのか多少なりとも耳にするようになった。
中には思わず眉を顰めたくなるような不健全な話もあったが、大抵の恋人達は年相応に節度と節制を守りつつ青春を謳歌しているようだった。
そう言った話をドラマや小説の中でしか知らなかった俺はそれらがフィクションではなく現実にも存在すると知って正直とても羨ましく思ったのだ。
許されるならば彼女ともっとそばに……物理的な距離感ではなく心理的にもっと近くに感じられるような関係になりたい。だが、俺も彼女もこれが初めての交際でどうにも勝手がわからなかった。家族公認の仲ではあるが親しかった昔の関係に戻っただけのように感じられる。
鳴海サンプル
二ノ瀬さんは「病気以外は本人と周りの助けでどうとでもなる」と言うけれど、それは最悪な不幸を前提にした場合であり生きていく中でどうにもならないことは無数にある。例えば僕と彼女の関係。彼女と出会ったのは僕が中学三年生の時で、その時彼女は高校二年生だった。
今は僕が大学生で彼女は新社会人。追いかけても追いかけても彼女は僕の先を行く。そして僕が望んで手を伸ばしても、その手を取ってくれることは決してないのだ。
何の事かって? 一々言葉にさせようとするなんて無粋ですね。それなりの年数付き合っている恋人同士と言えば何となく察しがつくでしょう?
お付き合いしてからもう四年。お互い実家……彼女の場合は伯母の家ですけど、保護者の元に身を寄せていた頃とは状況が違うわけですよ。それなのに彼女ときたらたった二歳の年の差なのに僕の手本か道標にでもなるつもりでやたらと無理をして「良い大人」であろうとするんです。
要サンプル
十八は若い。それどころか二十だってまだ子供のように感じる。自分が二十歳になった時は大人の仲間入りをしたような気になっていたが、数年もすると二十歳はまだまだ子供だったなんて思うようになっていた。
実際子供だろう。成人式が二十歳だった頃を思い出してみて欲しい。彼らに大人らしい振る舞いが出来ていただろうか。一部の永遠に大人になれなさそうな馬鹿は置いとくにしても、その顔はぎこちなくあどけなさが残っていたはずだ。だから、彼女が十八になって再び想いを告げてきた時、俺は気持ちに応えるだけでそれ以上は無しだと言った。キスはもちろん手をつないだり腕を組んだり、はたから見て恋人に見えるような行為は本当の大人になるまで一切しないと。
そしたら彼女は二十歳までなら我慢すると言った。だがそれ以上は責任逃れにしか思えないから覚悟しろとまるで鳴海誠一のような圧の強い笑みを浮かべ俺に将来の約束をさせた。
そして……今日は彼女の誕生日だ。もちろん二十歳の。