「そういえば、南先生から頼まれてた資料、誰か作ったんですか?」
 
乃凪「え? そんな話聞いてないぞ」
 
「そんな訳ないじゃないですか。みんながいたときに南先生、言ってましたよ?」
 
内沼「そうだっけ?」
 
「…………」
 
 
 
風紀の仕事を影で支えているのは、匣くんだったりする。
 
 
 
 
或るTHSCの日常。9
 
 
 
 
沢登先輩を待ちながら、私たちは風紀の仕事をすることになった。
 
私と匣くんは各委員会のと部活の顧問の先生に、
“今年度の予算を何%使ったか”という聞き込みをする作業を任され、
匣くんが委員会の顧問の先生に話を、私が部活の顧問の先生に話を聞くという分担になった。
 
 
 
あかり「さてと……次は演劇部か」
 
「あらん? お姉さま?」
 
あかり「え? ……あ、堤くん!」
 
「よーっす。何やってんの? こんなところで」
 
あかり「ん? 今ね、委員会活動の最中なの」
 
「まあ。精がでることで!」
 
あかり「うん。堤くんはどうしたの?」
 
「俺? 俺は……」
 
勅使河原「千弦!! いい加減観念なさいッ!!」
 
あかり「……えーと?」
 
「いやあ、もてる男はつらいねぇ……」
 
勅使河原「なに馬鹿なこと言ってるの!! あ、あら、西村さんこんにちは」
 
あかり「こんにちは〜……」
 
「なんだよ勅使河原先輩。俺、今回の劇は降りるって言ったろ」
 
勅使河原「……堤くん、そんなわがまま言わないの」
 
「嫌なもんは嫌なんだよ。今回は先輩が全部やればいいじゃん」
 
勅使河原「千弦……」
 
「じゃあな、勅使河原先輩。行こうぜ、西村」
 
あかり「あ、堤くん!」
 
 
 
堤くんに手を引かれ、私は思いつめたような表情をした勅使河原先輩に失礼します、と一言告げた。
 
 
 
*******
 
 
 
あかり「あの、堤くん……」
 
「あ、悪い。委員会の途中だったんだよな?」
 
あかり「ううん、それはいいけど……」
 
 
 
無言のまま歩き出した堤くんに声をかけられないまま、私は屋上まで連れてこられた。
 
 
 
「はぁー……ったく、勅使河原先輩ってマジかてぇでやんの」
 
あかり「どうしたの? いつもは京香って呼んでるくせに」
 
「ん? 嫌がらせ。
 がーって感情的になってるあいつを“勅使河原先輩”って呼んでやると、一気におとなしくなるの」
 
あかり「……本当、どうしたの? なんだか堤くんらしくないよ……」
 
「……俺らしい、って、なんなんだろうな」
 
あかり「え?」
 
「京香も同じようなこと言ったよ。“今回の演出はあなたらしくない”って」
 
あかり「……それが喧嘩の原因?」
 
「そ。馬鹿みたいな理由だろ? ……でも、俺にとってはそうじゃないんだ」
 
あかり「……あのね」
 
「ん?」
 
あかり「私の中の堤くん像は、楽しくて、優しくて、気が利く……かな?」
 
「へえ、結構好感度高し?」
 
あかり「うん」
 
「じゃあ、俺と付きあってよ」
 
あかり「え」
 
「……いいだろ?」
 
 
 
急に真面目な顔で、堤くんが私に向き直った。
無駄のない動作で腕を持ち上げ、その指先で軽く唇をなぞられる。
 
 
 
あかり「ッ……」
 
「……俺じゃ嫌?」
 
あかり「つ、つみ……」
 
「なーんちゃってv」
 
あかり「え……?」
 
「やっばい、どうしよう。俺天才じゃない?」
 
あかり「堤……くん?」
 
 
 
一人で異様に盛り上がってる堤くんを目の前にして、
私はヘタヘタとその場にしゃがみこんでしまった。
 
 
 
「あれ、お姉さま?」
 
あかり「び、びっくりした……」
 
「あ、本気かと思った?」
 
あかり「ぅ……恥ずかしいけど思ったよ……」
 
「いやぁ、俺の演技力もなかなかってとこかな?」
 
あかり「もう……女の子にはこんなことしないほうがいいよ?」
 
「はいはい。じゃあ、男の子ならOK?」
 
あかり「……止めはしないけど……勘違いされて、大変な目にあうのは堤くんじゃないの?」
 
「確かにな」
 
 
 
悪びれる様子もなく笑顔を見せる堤くんに、私もつられて少し微笑んだ。
 
 
 
あかり(はぁ……。じゃあ、そろそろ仕事戻ろうかな)
 
「大体さ」
 
あかり「ん?」
 
「いや。大体、彼氏のいる女の子を口説く奴に見える? 俺が」
 
あかり「……え?」
 
「だって、沢登と付き合ってるんだろ? 西村」
 
あかり「……え?」
 
 
 
だ……誰からそれを?!
 
 
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