みんなにさえ言っていない事実を、何故か知っていた堤くん。
そういえば、内沼先輩にもばれてたな……。
 
実は、バレバレなんだろうか。私と沢登先輩の関係は……。
 
 
 
 
或るTHSCの日常。10
 
 
 
 
多分、すごい表情で固まっているであろう私の顔を覗き込みながら、堤くんは不思議そうな顔をした。
 
 
 
「あれ? もしかして、今沢登とケンカとかしちゃってたりするの?」
 
あかり「え?」
 
「いや、沢登の名前出した途端にすごい顔になったから」
 
あかり「あ、そうじゃなくて……どうしてそのことを知ってるの?」
 
「そのこと?」
 
あかり「そ、その……私と沢登先輩が……」
 
 
 
はッ! もしかして、ふみから聞いたとか?!
……いや、ふみはそんなことしないな。私が後で怖いから。
 
 
 
「んー……思い悩んでるところ、よろしい?」
 
あかり「あッ、う、うん」
 
「俺は沢登から聞いたんだけど」
 
あかり「ええッ!! さ、沢登先輩から!?」
 
「そ」
 
あかり「沢登先輩、内沼先輩にも乃凪先輩にも言わなかったのに、堤くんには言ったんだ……」
 
「意外?」
 
あかり「う、うん……」
 
「まあ、俺と沢登と花邑は、一年のとき同じクラスで仲良かったからな」
 
「俺、結構目立ちたがり屋だからさ、クラスの女子に人気はあっても、男子には結構嫌われてて」
 
あかり「そうなの? なんか意外……」
 
「そうなの。んで、クラスで浮いてる存在だった俺に、声をかけてくれたのが花邑でさ」
 
あかり(……さすが、花邑先輩……)
 
「だから、多分花邑にも言ってると思うよ」
 
あかり「そっか……」
 
「そうそう、花邑といえば……」
 
あかり「ん?」
 
「今日は随分久しぶりにあの光景をみたな」
 
あかり「あの光景?」
 
「ああ。今日の昼休みの終わり頃、教室の近くの階段の踊り場にいなかった? 西村と沢登」
 
あかり「い、いたけど……」
 
「だよな。ってか、沢登を見間違えるはずないが」
 
あかり「……見てた?」
 
「まあ、別に覗き見する気は無かったんだけど、ちょっと面白そうだったから」
 
あかり「それって見る気満々だよ……」
 
「あはは、まあ、ほら。ねえ?」
 
あかり「…………」
 
 
 
もー! 沢登先輩ってば!!
思いっきり人目についてるじゃないですか!!
 
はあ……でも、どこから見られてたんだろう。
……まさか、『鼻チュー事件』は見られてないよね……。
 
 
 
「花邑がいた頃はよく見かけた光景だったんだよ、あれ」
 
あかり「えッ!? 鼻チューがッ!?!」
 
「え、な、なんだって?」 
 
あかり「さ、沢登先輩、花邑先輩にまでやってたの?!」
 
「ま、まあそうだけど……あれは、どっちかというと、花邑の好意でやってたから、
『やってた』というよりは、『やられてた』が正解っぽいけどな?」
 
あかり「は、花邑先輩が沢登先輩にねだって鼻チュー?!
 え、『やられてた』じゃ、ねだってないのか……いや、どっちにしても!?」
 
「に、西村? あの、鼻チューって???」
 
あかり「そ、そんな……私の口からはとても……」
 
 
 
というか、盛大にショックを受けましたよ、私は……。
お母さん、天国のお母さん……私は一体どうすれば……。
 
 
 
「えーと……、そんなにショックを受けることなのか?」
 
あかり「受けるよ! い、いくら仲が良くったって、そんな……普通は……」
 
「まあ、確かに異様な光景ではあったけど……」
 
あかり「し、しかも、堤くんはそんな状況でも近くにいたんだ……」
 
「ああ。だって、スカートの皺直しったって、沢登は男だから」
 
あかり「え……? 何直し?」
 
「スカートの皺直し」
 
あかり「スカートの……皺……?」
 
「奴さ、結構大雑把なんだよ。スカートに皺ができても全然気にしないし。
逆に、一緒にいる俺とか花邑がすっごい皺が気になってさ。
そんで、何度もそのこと言うんだけど、改善されないんだよ」
 
あかり「あはは……」
 
「でー。最終的には、花邑が家庭科室借りて、週2くらいのペースでアイロンかけてた」
 
あかり「さ、さすが花邑先輩……」
 
「だからさ。今日、西村が沢登のスカート直してるの見て、懐かしいなって思ったってわけ」
 
あかり「そうだったんだ……」
 
「沢登も同じこと思ったんじゃないかな」
 
あかり「沢登先輩も……」
 
「……っと、そういえば、西村は委員会の最中だったんだよな。悪い、引き止めちまって」
 
あかり「あ、ううん。私の方こそ、いい話が聞けてよかった」
 
「そ? そういってもらえると助かる。まあ、過去話なら大量にしてやるよ。
沢登だって、彼女に話す分には怒らないだろうからさ」
 
あかり「そ、そうだといいけど……」
 
「大丈夫だって。……じゃあ、俺もそろそろ部室戻るか」
 
あかり「うん。その方がいいよ。きっとみんな心配してるから」
 
「そーね。ああ、もてる男わ辛いわぁ」
 
あかり「あはは」
 
 
 
屋上をでて、階下へ続く階段を下りながら、さっきの沢登先輩を思い出す。
もしかして、もしかしたら、考えすぎかもしれないけど……。
 
私がスカートの皺を直したことで、花邑先輩を思い出だしてしまった……とか?
 
 
 
あかり「…………」
 
「あら? どうしたの? お姉さま」
 
あかり「あ、ううん。なんでもない」
 
 
 
……私、余計なことをしてしまったのだろうか。
 
 
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