春の追い出され祭 −section1−

 
 
ただいま三月三日。
数日で、追い出され大会当日が来る。
 
 
 
 
 
春の追い出され祭 1
 
 
 
 
 
放課後の教室。
沈みかけた太陽で、室内はオレンジ色の絵の具を塗りたくったような鮮やかな色に染まっていた。
 
 
 
 「ふあぁあ……」
 
 
 
そんな中、吸い込まれてしまいそうな程大きな口を開けてあくびをしているのは、
私の親友、広瀬希世子である。
 
 
 
あかり「ふふ、眠そうだねキヨコちゃん」
 
希世子「んー、昨日夜遅くにネ、見逃したドラマの再放送がやってたのよォ」
 
あかり「あ〜、それを見たから眠そうなんだね」
 
希世子「そうそ」
 
 
 
そういいながら、彼女は再び大きなあくびをする。
 
 
 
あかり「でも、話し込んでたらこんな時間になっちゃったね。そろそろ帰ろうか?」
 
 
 
なにをするわけでもなく、取り留めのない話をしていたら
いつの間にか時刻は午後六時を回っていた。
 
 
 
希世子「全然ダイジョウブ! むしろ望むところ」
 
あかり「え? あ、うん。そうだね……」
 
 
 
言ってることが良く分からない。
希世子ちゃんは相当眠いらしい。
 
分からないまま曖昧に笑った私に気がついたのか、
彼女はぶぅぶぅいいながら、アヒルのように口を突き出す。
 
 
 
希世子「あー、でも明後日はいよいよ追い出され大会ねェ」
 
あかり「うん。そうだねー」
 
 
 
追い出され大会とは、卒業する三年生を送り出す会のことである。
毎年恒例のそれは、卒業式の前日に、卒業する三年生が主催の元で行われる。
送り出される側自らが演出し、運営し、実行管理をするのである。
 
 
 
希世子「あかり、確か前風紀委員長の雨宮先輩にお世話になってたよね」
 
あかり「そうそう、思いっきりお世話になった」
 
 
 
雨宮真理子(あまみやまりこ)先輩。
私が所属している風紀委員会の前委員長で、
『黒の雨宮』として各委員会長からも恐れられた存在らしい。
彼女の突っ込みは切れ味鋭く、さらに言葉だけではなく時として手や足が出るらしい。
その動きや見事で、既に肉眼では捕らえられないほどと言われている。らしい。
 
 
 
希世子「らしいらしいってあんた……」
 
あかり「だって、噂でしか聞いたことないんだもん」
 
希世子「結局、言われてるだけなんでショ?」
 
あかり「うん、言われてるだけ」
 
希世子「見たこと無いんでショ?」
 
あかり「うん、まったくない……訳でもないかな」
 
希世子「え?」
 
あかり「ううん、和原くんがよく雨宮先輩に吹っ飛ばされてたなって」
 
希世子「あ〜……そういえば私も見たことあるわ」
 
あかり「あるよね」
 
希世子「うん、あるね」
 
 
 
和原くんというのは、私と同じ委員会に所属してる男の子で、希世子ちゃんとも仲がいい。
 
 
 
希世子「あいつ馬鹿だよねー。あんな猪突猛進に突っ込まれてきたら、誰だって引くって」
 
あかり「そうかな、まっすぐで良いと思うけどな」
 
希世子「まっすぎ過ぎるの! もうすこし曲線描いても良いと思わない?」
 
あかり「あはは。だったら希世子ちゃんが指導してあげれば良いじゃない」
 
希世子「私?! 私は、ほら、その。……ねェ?」
 
あかり「なぁにぃ? どうしたのぉ?」
 
希世子「…………」
 
あかり「ん? キヨコちゃん?」
 
希世子「も〜! ま、マジで勘弁してよォ、あかりィ」
 
あかり「あはは」
 
 
 
見る見るうちに顔が赤くなっていく親友。
そう、彼女には好きな人がいるらしい。
 
それを知ったのは、去年の12月だった。
 
 
 
希世子「どうせ人事だと思ってるんでショ!」
 
あかり「そんなことないってば」
 
 
 
ホントかなァと、彼女はさも納得いかないような目つきで私を見る。
 
 
 
希世子「なにさ、あかりにだって、好きな人くらいいるでショ?」
 
あかり「うん、いるよ」
 
希世子「え?! ま、マジで?! そんなあっさりとあんたって、そうじゃなくて誰だれダレ?!」
 
 
 
興奮気味に立ち上がった彼女の所為で、
彼女の座っていた椅子が吹っ飛び、後ろの席が横倒しになった。
机の中身も巻き添えにして。
 
 
 
希世子「あ……」
 
あかり「な、直さないと」
 
希世子「そ、そね……って! そんなの後で良いって! そ、それより好きな人って」
 
あかり「ふみとお父さん」
 
希世子「え?」
 
あかり「だから、家族。おじいちゃんも大好き」
 
希世子「あ、あははは……そういうオチ? はぁ、流石あかりねェ」
 
 
 
そういうと、彼女は盛大なため息を吐いて、椅子に座りなおした。
 
 
 
あかり「? どうしたの? キヨコちゃん」
 
希世子「なァーんでも無いわよォ。ったく、ふみくんにも同じこと聞いてみたいわね、是非」
 
あかり「ふみ?」
 
希世子「あ、ヤー……ほらさ、あんたんとこって家族がかなり仲いいじゃない?」
 
あかり「うん」
 
希世子「だ、だからふみくんも、あかりとおんなじこと言うのかなーって」
 
あかり「どうだろうねぇ。最近のふみはよくわからないよ」
 
 
 
言った途端、急に彼女の表情が曇った。
 
 
 
希世子「ん? なんかあったの?」
 
あかり「それも解らないんだよね。なんか、ここ一週間おとなしいんだ。私とあんまり話してくれないし」
 
希世子「……それってあかりがなんかしたんじゃないの?」
 
あかり「や、やだなぁ。なにもしてないって」
 
希世子「ふーん……本当かなァ」
 
あかり「ほ、本当だって!」
 
希世子「へー……ま、いっか。じゃ、そろそろ帰りますか」
 
あかり「そうだね」
 
希世子「……その前に、後ろの机直そうか」
 
あかり「あ、忘れてた」
 
希世子「忘れないでヨ」
 
 
 

section 2 へつづく